Forget-me-not

備忘録

【映画】『私の男』 感想

女って汚いし人間って気持ち悪い。
テレビを見る時間が無さ過ぎて「私の男」なる映画が公開されたことすら知らなかったけど、「中年男性と若い娘の逃避行」「長回しの濡れ場がすごい」「ことあるごとに指フェラシーンが登場」という私のフェティシズムの殆ど全てを満たしてくれる要素が入っているという話を聞いて、これは見なければならぬという確信をもって見に行きました。

流氷の下から這い上がってくる高校生の花(二階堂ふみ)のカットで始まり、そのまま幼少期の回想に入り、現代に向けて物語を追っていくという流れ。 
幼少期に北海道で震災に遭い、母を亡くした幼い花が母の死体を見てしばらく何か考えたあと、おもむろに蹴りつけたときの「ドンッ」というSEがなんとなく印象的でした。
それから、避難所を彷徨う花の腕の中で大事そうに抱え込まれた大きなペットボトルのミネラルウォーターが非常に象徴的に感じました。
水は「(1)生命の源、(2)浄化の手段、(3)再生の中心」の象徴であり、また「母親」のイメージをも持っていると言われています。(http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/antiGM/water.html
ひとり生き残った花の生命や震災からの再生、亡くなった母親など、そのときの花の状態を端的に表すモチーフになっていたように思えました。
また、そのミネラルウォーターを淳悟(浅野忠信)に「飲まないのか」と聞かれ、「飲むー」と応答しながらも最後まで花が口を付けなかったことに強い違和感を覚えたのですが、これは自分の「生命」や「母親」といったものを心の底では否定しているかのような、後に段々と表出してくる花の歪さを表しているように感じられます。

また、水に加えてこの映画の要所要所で象徴的に登場するのが、指です。
(1)幼い花を養子に迎えることになった夜、帰路についた車の中で花が握り返した淳悟の指。
小町を挑発するような目で見つめながら花が舐める淳悟の指。
この場面では淳悟も花の指を舐め返していました。
これを見た小町は、淳悟と花が親子ではなく男女の仲であることの確信を得たかのように見えました。
(2)情事の導入に、花の指に付いた朝食のパンのジャムを舐める淳悟。
(3)東京移住後合コンで酔いつぶれた花を家まで送ってくれた若い男の指を、淳悟が探るように舐める。
(4)タクシー会社で給料を前借りするために拇印を押した後、淳悟がその指に付いた朱肉を拭かれながら担当の女に「若い娘は臭いに敏感だから気をつけろ」と注意をされる。
まぁ舐める舐める。
こうして見ると、指はこの映画の中で性的な繋がりの証とされているように思えました。
何故それに指を選択したのかというのは原作を読んでいないこともありよく分からないですが、個人的に指フェチなので非常に良いなと!思いました!

また、映画の中でキーワード的に聞こえる強い台詞がいくつかありました。

・「お前には無理だよ」
大人になった花が連れてくる若い男に対して淳悟が言う言葉。
合コンで出会った男に言った時と、結婚相手に言った時で、二度出てきます。
が、前者ではまだ確信を持った芯のようなものが感じられたものの、後者では淳悟が堕落し切っているにも関わらず、未だ花を手放したくないという意地だけで言っているような弱々しさを感じました。

・[流氷の上での、大塩老人と花の対話]
詳細な台詞は覚えていませんが、花を心配して淳悟から花を離そうとする大塩老人に対して、胸の内をぶつける花のひとつひとつの言葉に共感しすぎて泣きました。完全に個人的な話です。

・「後悔なんてしない。好きな人にも、させたくない」
流氷の隙間から這い上がって来た花が、帰宅したのち淳悟に「お父さん、しよ」と誘いシャツのボタンを外しながら、絞り出すように言った台詞。
この映画の中で最も心に残った言葉です。


予習をしてなさすぎて本編を見るまでこれが近親相姦を扱った話だったり、殺人が出てくるとすら知りませんでしたが、この映画は「近親相姦」とか「サスペンス」とかそういう言葉はそぐわないというか、そういう言葉に括れるようなものではないなと思いました。
男女関係の本質みたいなものが凄く感じられて、すごく好きだなと。

いくつかネットで書かれているレビューを読みました。
なるほど潔癖症の女性には花は所謂メンヘラクソビッチにしか映らなかったのかなという感じがしましたが、私は好きです。
最後に、演者や監督の本気度がビシビシ伝わってくる良い記事を見つけたので、ふたつ貼っておきます。
『私の男』浅野忠信二階堂ふみ 単独インタビュー - Yahoo!映画 http://movies.yahoo.co.jp/interview/20140616001/
・「私の男」に近親相姦被害者が疑問 http://www.nikkansports.com/entertainment/news/f-et-tp1-20140716-1335197.html
読まなくても映画を見ただけですごく伝わってきましたが、こちらも併せて是非読んでみてください。