Forget-me-not

備忘録

【映画】江戸川乱歩「芋虫」映画三種 感想

昨年12月頃、卒論のために見た江戸川乱歩「芋虫」に関係する映画三篇の感想。
「芋虫」ありきで見たので、如何に原作「芋虫」を体現しているかという視点から書いてます。 「キャタピラー若松孝二監督/2010年

私はどちらかと言うと多分右寄りの考え方だし、そもそも映画にしても小説にしても絵にしてもそういう芸術作品の中に政治的なメッセージを込めることが大嫌いなので物凄い偏見を持った状態で見たんだけど、乱歩の「芋虫」の世界の再現率は物凄かった。
「芋虫」は映像不可能なんかじゃないんだと思わせてくれる作品だった。
また、元がピンク映画の監督ということで濡れ場に定評が云々という事前情報があったけど、まぁ確かに良いというか、単純にエロいんじゃなくて原作の濡れ場の「狂気」がよく表現されているように感じた。
と、原作ファンをこれだけ満足させる世界観の再現率を誇っているだけに、冒頭や終盤でしきりに戦争の映像を交えておもむろに反戦を訴え始めるような寒いことはしてほしくなかった。
そういうこと伝えたいなら芋虫は使わないでよっていう。
というか、乱歩の「芋虫」が題材になっているのは明白なのに「キャタピラー」なんて滑稽なタイトル付けて、公開中のCMでも「江戸川乱歩」「芋虫」というワードが一切出てこないのはなんでだろうと調べてみたら、乱歩側に「題材として使わせてください」とお願いしたところ著作権料を請求されてキレた若松が「じゃぁ芋虫って一切言わないまま公開する」って方針にして押し切ったらしい。
それ違法なんじゃないの?って、版権同人やってる私が言うのもあれですけど…。
若松なんかどうでもよくて、原作の「芋虫」のファンっていう私みたいな人間からすると、こういうことは悲しくなっちゃいますね。
でもまぁ、寒い反戦メッセージのところ以外はとっても良い映画だと思いました。


「ジョニーは戦場へ行った」ドルトン・トランボ監督/1971年

「芋虫」にある四肢を失った廃兵、廃兵の胸に指で文字を書き伝えるコミュニケーションという点以外は共通点が無いため、「芋虫」のそうした部分を参考程度に取り入れた映画だと思って見た。
やっぱり反戦映画。とは言えこちらは前述のキャタピラーと違い原作を蹂躙、侮辱されたような気は全くしないので、別に、という感じ。
ただ、興味深いのが公開年で、「芋虫」雑誌掲載が1929年であるから僅か40年で海外の映画に取り入れられるほどになったというのが、当時からすると割とすごいんじゃないかなと思ったけど、1929年からの40年って戦争を挟んでるからその間でそういうこともあるのかな、よくわからないです。
映画自体は普通でした。


「芋虫」佐藤寿保監督/2005年

オムニバス映画『乱歩地獄』の中の一篇。
こちらは「反戦」という要素は殆ど排除されているものの、原作「芋虫」の「グロテスク」にフォーカスしすぎていて、アーティスティックで抽象的な仕上がりになっている。
それはそれだとは思うがなんか残念。
個人的に前衛的なのが苦手というのもあると思うけど。
ちなみに廃兵役は大森南朋さん。こんな仕事もしてたんですねぇ。
乱歩地獄』の「鏡地獄」はなかなかグッドでした。寺田農とか出てて。


というわけで結論を言うと、原作「芋虫」の世界観をよく体現してくれていたのは「キャタピラー」だけど、乱歩は「探偵小説四十年」とかの数あるエッセイの中で口を酸っぱくして「芋虫は反戦小説として書いたのではなく、ただこの世の悲惨やグロテスクを表現したかった」と語っているので、そういう原作「芋虫」の「精神性」みたいなものを最もよく再現しているのは佐藤監督の『乱歩地獄』の「芋虫」なのかなぁと思いました。
……って、卒論に書きました。